とある日の夕ご飯

夫婦の散歩とフォーの夕食

20年続けている習慣がある。

週末になると、妻と二人で名古屋の栄や大須を散歩している。目的は特にない。ただ、歩くこと。話すこと。気になる店をのぞいたり、イベントを眺めたりする。何かを買うこともあれば、ただ「おいしそうだね」と言って通り過ぎることもある。それでも十分に楽しい。

かつては、子どもと一緒に家族全員で出かけていた。買い物をしたり、アイスを食べたりするのが当たり前だった。でも、子どもが中学生になった頃から、二人で出かける機会が増えた。そのときは、夫婦での時間が持てることをありがたく思っていたけれど、今になって振り返ると、子どもと一緒にいた時間そのものがかけがえのないものだったのだと気づく。

そんな思いを噛みしめながら、今日も妻と二人で散歩に出る。きっかけは昨晩のテレビCMで見たモスバーガーのハンバーガーと、あまおう入りのシェイク。「あれ、食べに行こうか?」と軽く誘い合い、それが散歩の口実になっている。

歩きながら他愛もない話をする。途中でラーメンの食べ比べイベントが開催されているが、「おいしそうだね」と言うだけで満足する。わざわざ並んで食べるよりも、この時間を楽しむ方が大事だから。

散歩の最後に、妻が「そろそろフォーの麺がなくなったから、買いに行こうよ」と言う。大須の商店街にあるアジア食材の専門店。いつもここでフォーの麺を買っている。今日は現地のチキンコンソメスープも購入し、家にあるナンプラーと合わせて、晩ごはんの準備をすることに。

最近、大阪で平日2泊3日を過ごす生活をしている。その間の食事はスーパーの総菜ばかり。そんな中だからこそ、妻と作る手作りの夕食が心に染みる。

フォーのスープの湯気が立ち上る。 淡くやさしい味が、体にじんわりと染み込んでいく。 「こういうのが一番だよね」 妻とそんな言葉を交わしながら、フォーをすする。

53歳になって、これまで目に映るものすべてを追い求めてきた。でも、華やかで刺激的なものよりも、こうした日常の温かさこそが、本当の幸せなのかもしれない。

あと6年と少しで60歳。

私がこれからの7年間で本当にしたいことは、ただ一つ。妻とこうして、何気ないデートを続けること。

私の人生の年表には、レースのシリーズチャンピオンや、仕事でのイベント優勝も記されるだろう。でも、それらよりも輝く時間があるとすれば、それはきっと、この妻との散歩の日々なのかも知れないなと

確信している。


2025の走り始めに感じたこと(物語風味)

「ねえ、今日はどこ走ってたの?」

電話の向こうから、柔らかな声が響く。彼女はバイクには乗らないけれど、私がバイクについて語るのを楽しんでくれている。そんな彼女の声を聞くと、不思議と今日の感触を言葉にしたくなる。

「今日は新しい排気セッティングを試してみたんだ。排気抵抗の少ないエキパイに、純正のマフラーを合わせたんだよ。」

「ふーん、それってどんな感じなの?」

「シルクみたいなエンジンの鼓動、って感じかな。静かだけど、無駄な雑音がなくて、スムーズに回る。まるでバイクが上品になったみたいなんだ。」

彼女はしばらく黙っていた。電話越しに小さな吐息が聞こえる。

「それって…乗ってて気持ちいいの?」

「すごくね。海外向けのバイクはパワーを出すために圧縮比やカムで力強さを出してるけど、日本の昔の国内仕様はその逆で、パワーを抑えてたんだ。でも、ただ落としてるんじゃなくて、そのバランスの中で滑らかさを作り出してた。」

「なんか、お料理みたいだね。」

「料理?」

「うん。スパイスを足すんじゃなくて、素材の味を引き出す感じ。例えば、お出汁をちゃんと取ると、シンプルなのにすごく深みのある味になるじゃない?」

「なるほどね、それに似てるかも。パワーを抑えた分、扱いやすくなって、余計な力を抜いて走れるんだよ。」

「そっかぁ…そういうのがわかるって、なんかすごいね。」

彼女の声は、まるで静かな風のように心地よかった。こんなふうに誰かに伝えながら、自分でも改めてバイクの楽しさを噛みしめる時間が好きだった。

「ねえ、前に言ってたじゃん。レースで速くなるのも楽しかったけど、今はバイクのセッティングを変えて、自分で乗りやすさを見つけるのが楽しいって。」

「うん、今はそうやってバイクと向き合ってる。ディメンション、吸排気、サスペンション…ちょっとずつ変えて、その変化を感じるのが楽しいんだ。まるでパズルを解くみたいにね。」

「なんか、バイクとずっと付き合っていく感じがするね。」

「そうかもな。毎日試して、記録して、また試して…それを繰り返してる。YouTubeにも日記みたいに残してるし、記録が増えていくのも楽しい。」

「そっか…じゃあ、いつか私も乗せてくれる?」

その言葉に驚いて、思わず電話を持つ手が止まる。

「えっ、バイク苦手じゃなかった?」

「うん、ちょっと怖いけど。でも、あなたがそんなに好きなものなら、私も一緒に感じてみたいなって。」

心臓が少しだけ高鳴る。

「じゃあ、ツーリング遊びの時にでも、一緒に行くか?」

「うん、行きたい。」

彼女の声が、バイクのエンジンみたいにシルキーに響く。これからもバイクと長く付き合うことになりそうだ。そして、その旅のどこかに、彼女がそっと寄り添ってくれるのかもしれない。