2025年02月10日一覧

2025年 18年目の車検

バイク車検の日

 今日は待ちに待ったバイクの車検の日だ。俺の愛車、CBR600RRを購入してから早18年。2007年からずっと共に走ってきた相棒だ。俺も53歳になったけど、こいつもまだまだ元気だ。

 今回の車検では、これまでのローハンドルから、パイプのアップハンドルへと構造変更をする予定だ。これまでのセパレートハンドルも気に入っていたけれど、そろそろもう少し楽なポジションに変えてみようと思ったのだ。そんなわけで、小牧車検場の朝一番、Round1で構造変更の予約を入れておいた。

 構造変更の車検は初めてだが、事前にネットでしっかり調べ、諸元についても万全の準備を整えておいた。これなら検査官に何を聞かれても即答できるだろう。

凍える朝、ガレージへ

 朝7時、ガレージへ向かうと、室内の温度計はなんと0度を示していた。冬の寒さが肌を刺し、2月の厳しさを思い知らされる。つい二日前には雪が降ったばかりで、今日も風は冷たい。でも、空は澄み渡り、陽射しが少しずつ温もりを運んでくれている。この寒暖差を繰り返しながら、春はやってくるのだろう。

 今日は日曜と祝日の間の平日。会社は休暇推奨日になっていたため、俺は当然のごとく休みにした。しかし、いざ走り出してみると、渋滞に巻き込まれ、ああ、世間的には今日は普通の平日だったなと改めて実感する。

 それにしても、気温は10度になったというのに、渋滞にハマると愛車の水温計は100度を超えてしまう。これだからレースベース車は……。夏場なら信号ひとつでファンが回るし、冬でもいくつか連続で信号待ちが続けば、すぐに冷却ファンが回りそうになる。「もうちょっと、街乗りでも楽に走れるようにしてくれればいいのになぁ」と独りごちながら、車検場を目指した。

予備検査と調整

 車検場へ向かう前に、まずはヘッドライトの予備検査だ。小牧車検場近くにある、ボロボロの建屋に立ち寄る。壁のペンキは剥がれ、薄暗い室内には油の匂いが漂う。そんな建屋から出てきたのは、まるで鼠男のようなおじさんたちだった。

「光軸調整をお願いします」

「はいよ、そこのラインに停めてくれ」

 彼らはパッとしないつなぎを着ているが、その経験は折り紙つき、俺のCBR600RRをちらりと一瞥しただけで、細かい調整ポイントを瞬時に見極める。

彼らはまるでバイクの構造が頭に入っているかのように、狭い隙間から縦と横の調整スクリューを見つけ出し、手際よく調整していった。こちらが説明する間もなく、ものの5分ほどで完璧な調整を終える。

「これでバッチリだ。1700円なり!」「検査の時は、ハンドル持って押しちゃダメだぞ」「はい!」

まるで、坊主ちゃんとわかっているのかい?なんて感じで話している。

 仕事が終わると、ニカッと笑う彼ら。愛想はいいとは言えないが、腕も確かだ。見た目と雰囲気だけでは分からない、まさに職人の集まりか。

「助かりました!」

 これで準備万端、いざ車検場へ!

衝撃の事実

 今回は継続車検ではなく構造変更なので、受付の流れがよくわからない。とりあえず、開く前の窓口を点々と回り、置かれていたマニュアルに目を通してみる。

「あった、構造変更用の説明書!」

 しかし、読み進めるうちに、俺は驚愕する。なんと、この車検場では俺のCBR600RRの構造変更ができないというのだ。

「え、マジで!?」

 どうやら、構造変更はナンバーごとに管轄が決められているらしい。俺のナンバーでは、ここから20kmほど離れた名古屋の検査場でしか対応できないということが判明した。

「すみません、あの……」

 声をかけたのは、こんなところにいるのが信じられないほど可愛いスレンダーな女性だった。車検場の窓口にいるなんて、ちょっとした違和感すら覚えるほどの美貌。制服の上からでもわかる細身のシルエットに、長い黒髪がさらりと揺れている。

「構造変更の手続きをしたいんですが、この車検場じゃできないって……?」

「はい、申し訳ありません。構造変更はナンバーごとの管轄が決まっているので、名古屋の検査場で手続きしていただく必要があります」

 申し訳なさそうに微笑む彼女に、俺は一瞬戸惑ったが、すぐに我に返る。

「あ、そうなんですね。じゃあ、どうすればいいですか?」

「今でしたら、午後の予約がまだ少し空いていますよ。オンラインで予約を取り直せば、今日中に手続きできます」

 彼女が指し示したタブレットの画面を確認すると、確かに午後の枠が残っていた。

「おお、助かります! ありがとうございます!」

「いえいえ、お気をつけて行ってくださいね」

 笑顔を向けられ、なんだか妙に得した気分になる。さっそくiPhoneで予約を取り直し、無事に午後の枠をゲット。

 危ないところだった。今日の車検を逃せば、また別の日に休みを取る羽目になっていた。それに何より、あと四日で車検が切れるのだ。

 もし車検が切れれば、仮ナンバーを取得したり、自賠責保険を更新したりと、余計な手間が増える。そんな面倒なことにならずに済んで、本当に良かった。

 さあ、次の目的地は名古屋の車検場だ。果たして無事に構造変更は通るのか?

中部陸運局へ

 iPhoneでルートを検索し、頭に叩き込んで中部陸運局の車検場へと向かう。朝はあれほど混んでいた道も、9時を過ぎると通常の流れに戻り、スムーズに進んでいく。

 日が高くなり、風も穏やかになってきた。冷たい空気は相変わらずだが、バイクを走らせるには絶好のツーリング日和だ。俺はエンジンの鼓動を感じながら、しばし愛車との会話を楽しんだ。

 そんなこんなで目的地に到着。しかし、ここでまた一つの試練が待っていた。

混雑する車検場

 まず驚いたのは、小牧の車検場よりも圧倒的に狭いのに、人が数倍いることだ。特に外国人の姿が目立つ。どうやらこの車検場、多言語対応はほぼ皆無らしく、相談窓口には人だかりができていた。

 順番を待ち、ようやく相談窓口のおじさんと対面。面倒見の良さそうな雰囲気で、順番に手続きを説明してくれる。俺も構造変更のやり方を尋ねると、無造作にプリントを数枚渡される。

「この赤い部分を全部埋めて、ここで印紙と自賠責保険を買ってこい。それで準備完了だ」

 あれ? 構造変更に関する説明や概要を書く欄がない……。

 ネットでは諸元表や変更概要が必要と書いてあったのに、実際には拍子抜けするほど簡単な手続きだった。聞いてみると、以前は様式2というものが必要だったが、今は不要とのこと。

「どこを変更した?」

「ハンドルの幅です」

「エンジンやフレームじゃないなら問題ないね」

 おじさんは断言するように言った。理由は不明だが、どうやらハンドル程度の変更なら、そもそも構造変更の必要性すら薄いようだった。

いざ検査開始

 混雑する車検場で温かいコーヒーを片手に待つこと1時間。ようやく検査の時間がやってきた。

 しかし、ここでまた驚きの事実が判明する。なんと、二輪の検査場が工事中のため、特殊車両用のレーンで検査を受けることに。

 スピードメーターのチェックも実にアナログだった。

「外に出て、パイロンの間を20km/hで走ってください」

 適当に走ると、「はい、OKです!」とあっさり合格。

 構造変更のチェックも驚くほど簡単だった。ハンドル幅や高さ、重量を測っただけで、

「はい、結構です」

 ……え? それだけ?

 小牧ではボルトの緩みや後付けパーツの検査もあったのに、ここでは目視だけで終了。

 それでも何百台もの車両をさばくには、このくらい簡略化しないと回らないのだろう。

予想外の排ガス検査

 一つだけ気になったのは、排ガス検査の結果だった。NOxは合格だけど、COがNGになったのである。

「あれ、落ちるかな……」

脳裏に原因が浮かぶ。やっぱり触媒なしだと、、、ダメなのかなぁとか

2次エアは戻したれど、ファンネルとインシュレーターはレース用だから・・・とか

と勝手にダメだとテンション落ちていたけど、、、

 そう思った束の間、検査員は何も言わず、そのまま通過させてくれた。

 「はいOKです」

 「バイクはCOはNGでもいいのか……?」

 謎は残るが、通ったものは通ったのだ。結果、楽勝だった。

無事、車検合格!

 検査員は特に何も指摘せず、ローハンドルがアップハンドルになっていることにすら気づかなかったのかもしれない。

 「綺麗に作り込みすぎたせいで、最初からこういう構造だと思われたのかもな」

 ともあれ、合格は合格。朝の絶望を乗り越え、無事に車検を終えることができた。

 「いやぁ、良かった良かった」

 途中で出回っていた「ロービームで検査しないとダメ」「ナンバーが変わる」などのガセ情報に振り回されたが、その話はまた今度にしよう。