2025年02月18日一覧

もう一つの可能性、選択肢

そろそろ35年目のシーズンインが始まる。

もし、私が独身だったら。

もし、家や家族を持たなければ。

高級な外車のオートバイを何台も所有し、エンジンの進化を味わい尽くし、最新技術の粋を極めることができただろうか。そんな思いが頭をよぎることがある。それは夢の世界の話なのか、それとも、もう一つの可能性として存在していた現実なのだろうか。

16歳の頃にオートバイに魅せられ、18歳からはレースや練習会に参加した。毎日スロットルを開け、フルブレーキングを試し、理想のセッティングを探し求める——それが私の青春だった。それから休憩したこともあるが35年以上続けていても、今でも、まだ知らないこと、できないことは山ほどある。エンジンの特性を理解し、セットアップや構造を変え、試行錯誤を重ねる。もし時間と資金がもっと自由に使えたなら、そのすべてを追求し続けることもできたかもしれない。

私には、すべてのエンジン形式を乗りこなしたいという夢があった。過去には2サイクル単気筒や4サイクルの様々なタイプを所有し、そのフィーリングを楽しんできたけれど、V型2気筒、L型3気筒など、まだ体験していないものも数多くある。試乗程度なら経験はあるが、全開でスロットルを開け、ブレーキングを試し、徹底的にセットアップして走る——そこまでの追求には至っていない。

かつて、私はレースにすべてを捧げた。その時に選んだエンジンは、最も機能的で勝つために必要なものだった。その選択は間違っていなかったし、結果としてタイトルをも獲ることもできた。だからこそ、私は誇りを持って勝つための道具としてエンジンを選択する、その道を進んだと言える。ただ、一方で勝つことにこだわりすぎるばかりに、エンジンの多様なフィーリングを味わうという楽しみを手放していたことにも気づく。もし、もっといろいろなエンジンを試していたら、また違った楽しみがあったのかもしれない。とはいえ、後悔しているわけではない。その時その時、最善を尽くした結果として、造形深く、今こうして違う視点から新たな興味が湧いているのだから。

また私は家族を持つという選択をした。それは、私自身がその時、その年齢で、等身大の自分の意思でしっかりと決めたことだ。35歳を過ぎたとき、私は人生の転機を迎え、それをどうするかを考えた末に選び取った道だった。だからこそ、今、家族とともに過ごす幸せな時間があるのは、まぎれもなく自分自身の選択の結果だ。そして、その選択をしたことに後悔はない。週末、こうして妻とデートしていられるということが物語るように素晴らしい選択であった。

人生において、何かを選べば、何かを手放すことになる。比較するものではなく、どちらが正しいという話でもない。ただ、私はこの道を選び、今ここにいる。そして、選択した道の上で新たな挑戦を続けていっている。

私の人生の年表には、レースの記録や、オートバイの技術探求が残るだろう。そしてその傍らには、家族との日々の思い出もまた、等しく刻まれていく。しかし、私にとっての挑戦は、どちらか一方を選ぶことではない。これからも、家族との時間を大切にしながら、オートバイのエンジンやライディングの探求を続けていく。そのバランスを模索しながら、自分らしい生き方を追求していくことこそが、私の人生の新たな挑戦なのだ。

さて、そろそろ35年目のシーズンインが始まる。この期待感冷めやらずだ。さて走ろう


とある日の夕ご飯

夫婦の散歩とフォーの夕食

20年続けている習慣がある。

週末になると、妻と二人で名古屋の栄や大須を散歩している。目的は特にない。ただ、歩くこと。話すこと。気になる店をのぞいたり、イベントを眺めたりする。何かを買うこともあれば、ただ「おいしそうだね」と言って通り過ぎることもある。それでも十分に楽しい。

かつては、子どもと一緒に家族全員で出かけていた。買い物をしたり、アイスを食べたりするのが当たり前だった。でも、子どもが中学生になった頃から、二人で出かける機会が増えた。そのときは、夫婦での時間が持てることをありがたく思っていたけれど、今になって振り返ると、子どもと一緒にいた時間そのものがかけがえのないものだったのだと気づく。

そんな思いを噛みしめながら、今日も妻と二人で散歩に出る。きっかけは昨晩のテレビCMで見たモスバーガーのハンバーガーと、あまおう入りのシェイク。「あれ、食べに行こうか?」と軽く誘い合い、それが散歩の口実になっている。

歩きながら他愛もない話をする。途中でラーメンの食べ比べイベントが開催されているが、「おいしそうだね」と言うだけで満足する。わざわざ並んで食べるよりも、この時間を楽しむ方が大事だから。

散歩の最後に、妻が「そろそろフォーの麺がなくなったから、買いに行こうよ」と言う。大須の商店街にあるアジア食材の専門店。いつもここでフォーの麺を買っている。今日は現地のチキンコンソメスープも購入し、家にあるナンプラーと合わせて、晩ごはんの準備をすることに。

最近、大阪で平日2泊3日を過ごす生活をしている。その間の食事はスーパーの総菜ばかり。そんな中だからこそ、妻と作る手作りの夕食が心に染みる。

フォーのスープの湯気が立ち上る。 淡くやさしい味が、体にじんわりと染み込んでいく。 「こういうのが一番だよね」 妻とそんな言葉を交わしながら、フォーをすする。

53歳になって、これまで目に映るものすべてを追い求めてきた。でも、華やかで刺激的なものよりも、こうした日常の温かさこそが、本当の幸せなのかもしれない。

あと6年と少しで60歳。

私がこれからの7年間で本当にしたいことは、ただ一つ。妻とこうして、何気ないデートを続けること。

私の人生の年表には、レースのシリーズチャンピオンや、仕事でのイベント優勝も記されるだろう。でも、それらよりも輝く時間があるとすれば、それはきっと、この妻との散歩の日々なのかも知れないなと

確信している。